退屈な日常に飽きてしまった今、
        何かが変わってくれることを酷く願った。



        そして、君に出会った。













































        「どこだろう。」






























        部屋の電気が眩しいくらいに点いたと思った。

        しかし、それは違かった。



        辺りは霧に包まれ、目を細めてみれば
        遠いあっちに城のような建物が見えた。







































        「・・・・・・・・日本じゃないのか。」






































        冒険の匂いが止まない。


        退屈だった・・・いつもの学校も、付き合う人物も、周りの出来事も。
        もっと、ドキドキするような冒険を求めていたんだ。

        そして、この時を迎えた。
























































































        「次の授業は?」

        「東塔の一番奥の部屋だよ。」

        「了解。」

        「は片付けでしょ?」

        「僕ら先に行って席を取っておくよ!」

        「ああ、ありがとう!」




































        そう言うジェームズとリーマスに手を振る。
        ニヤニヤとするジェームズは何か悪戯を考えているのだろう。

        自分の顔が引きつったのは事実だ。










        この前は散々だった。



        すげぇ走らされた後に、大いに水をかぶった。

        どうしようもない怒りをジェームズの眼鏡にぶつけようと腕を伸ばしたが、
        リーチの差でジェーが私の髪をぐしゃぐしゃにする始末だった。




















        今回はこっちが報復してやらないと気が済まない。










































































         「放せ。」

         「嫌だ。」

         「断ったろ。」

         「認めてねぇ。」

         「・・・・・・・・お前なぁ。」

         「好きだ。」

         「無理。」

         「・・・・・好きだ。」

         「・・・・・・・・・・・。」



















































        誰もいなくなった教室で、シリウスが私の腹に腕を回した。
 
        抱きしめているというよりは、しがみ付いているという印象の方が強いのはどうしてなのか、
        彼の低い声が私の耳元で呟かれる。


        最後の呟きはもう祈りにさえ近い響きだった。






















































        「だからよ、言ってんだろ。私には恋人がいる。」

        「関係ねぇ。」

        「馬鹿!倫理を重んじろよ。」

        「俺は素直に生きてるだけだ。」

        「・・・・・・・頼むよ、シリウス。」

        「じゃあ、俺のものになれよ、。」

        「無理だ。」















































        腹に回された腕に力が入る。

        静かな教室内に次の授業の本鈴が遠くの方で響き渡るのが聞こえる。















































        「授業、始まっちまったじゃねぇか。」

        「・・・知らねぇ。」

        「てめ、私までサボりになっちまうだろ!!」

        「俺の傍にいろ。」

        「いるだろーがよ!」

        「ずっとだ。」

        「・・・・・・・・・。」

        「この先・・・ずっとだ。」

        「できるわけないだろ。」

        「帰んなよ。」
















































        彼は知ってるんだろうか。









        この前、ダンブルドア校長に呼び出された。
        帰る方法を得たらしい。

        その日のその場所、その時間でなければ帰れない。


        チャンスは一度きり。











        その時、帰らなければ、もうここで過ごすしかなくなる。
        誰も自分を知ることのないここで、一生を終えなければならなくなる。

        でも、それでも良いような気がしてしまう自分がいるのは本当だった。






        ここには親も家もないけど、
        自分の知りえない全てがあった。

        自分にはこの世界での生活は魅力的だった。












































        「もう、十日しか、こっちにおられん。」




































































































        「シリウス。」

        「・・・・・・・・・。」

        「もう10日しかこっちにはいられない。」

        「・・・・・・・・・・行くな。」

        「・・・お別れだ、シリウス。
         私はこっちの生活より、彼を選ぶ。」

        「・・・・・・・・・・・・・・・・・行くな。」














































        見えないのに彼の顔が泣きそうになるのを感じた。

        居心地の悪い雰囲気に「ここにいる。」と言ってしまいそうになる自分の弱い心が
        シリウスをさらに追い込むことは知っているんだ。




        抵抗しないという中途半端な優しさが彼が諦めない理由だってわかってる。

        ・・・欲張りだ。しかも酷い。
        好意を寄せてくれている彼を突き放さない。









        意地悪だ。
        彼にとってその温い優しさがどれだけ苦しいかわかってないのか。




















































        「シリウス・・・迷惑だ。」

        「・・・・・・・・・・・・。」

        「今は友人として好きだが、これ以上しつこくするようなら嫌いになる。」

        「・・・・・・迷惑でも、俺の気持ちは変わらない。」

        「・・・なら私はお前が嫌いだ。シリウス。」

        「嫌われても、好きだ。」

        「もう、私に話しかけないでくれ。」























































        彼の腕を強く払った。










        ここから去るまで、お前とはもう話さない。

        ごめんな、シリウス。



        お前を嫌いになることなんてないよ・・・。
        でも、友達以上には思えない。

        だから・・・・サヨナラだ。






















































































































































        「・・・・・・・・お前と一緒にいたい。」




































        まだ手に彼女の感触が残る。














































        「・・・・・・・・十日・・・。」










































        本気で人を好きになるのは初めてなんだ。

        他の女のことなんか考えられない。

















































        「・・・帰るつもりなのかよ、。」


































        世界が違って見えた。

        朝、だるく起きてカーテンから差し込む光が煩わしかったのに、
        「おはよう!」そう言うお前がいれば、その光さえ心地良かった。







































        「・・・・・・・・・・・・・。」

























































        好きなのに届かない・・・。















        どんなに必死に叫んでも、どんなに必死に伝えても、
        好きなのに届かない。

        この気持ちを諦められるわけないだろう。























































        「マジで、好きなんだから・・・・・・・。」






















































        十日後、本当に帰ることを授業の最後、
        ジェームズとリーマスの口から初めて聞いた。

        俺は、こいつらにが好きなことは伝えてない。
        なのに、「残念だネェ、シリウス君!」とジェームズの妙に元気な励ましは本当にウザかった。














































































        「・・・・・ごめん、シリウス。」








































        あいつの背中を追えなかった自分に悔いが残る。